株式会社グラットン様は、「人生にらしさを、仕事に遊び心を」という理念のもと、広島・東京・マレーシア・韓国を拠点に飲食店を展開する企業です。広島県に3つのセントラルキッチンを持ち、食品加工業やフランチャイズ展開など果敢なチャレンジを続ける同社は、店舗拡大にあたり、「味や品質の維持」や「製造量の安定確保」に課題がありました。
門井商店は、同社が展開する焼肉業態の強みである「もみだれ」のOEM開発を受託。熟練者によるこだわりの味、品質を丁寧に再現して、事業拡大を後押ししました。
今回は、同社の商品開発担当を務める執行役員の瀬崎英二氏にインタビュー。OEM開発に取り組んだきっかけや、門井商店に期待したこと、得られた成果について詳しく伺いました。
取材先企業
- 企業名:株式会社グラットン様
- 取材にご協力いただいた方:執行役員 瀬崎英二様
開発商品の概要
- ジャンル:ソース・タレ(焼肉のもみだれ)
- ロット:200Kg
- 容器:2Kg袋
- 開発期間:約2週間
商品開発前の課題
- 店舗拡大において焼き肉店で重要となる「もみだれ」の味のバラつきに悩んでいた
- セントラルキッチンはあったが「もみだれ」の工程は複雑で手間がかかるため、安定供給が難しく、また他の商品開発においてボトルネックとなっていた
商品開発後の成果
- これまでと変わらない味の「もみだれ」を安定供給できるようになった
- 店舗開発の速度をあげることができた(年間多い時で6~7店舗)
- 「もみだれ」をアウトソースしたことでセントラルキッチンに空きスペースをつくることができ、別の材料の保管や新商品開発に活用できるようになった
焼肉・韓国料理業態を中心に事業を展開。飲食業のイメージをくつがえす
――貴社の事業内容や特徴について教えていただけますか?
瀬崎様:
弊社は焼肉・韓国料理業態を中心に約30店舗を国内外に展開している会社です。創業32年目となった現在は、飲食店だけでなく食品加工業やEC、人材紹介など幅広く事業を手掛けています。
飲食業界は昔から3K(きつい・汚い・稼げない)と言われてきました。このイメージをくつがえすべく、弊社は「ニュー3Kプロジェクト」を掲げ、新たな3K(かっこいい、かせげる、かなえられる)の実現に向けて取り組んでいる最中です。
人材育成にも力を入れており、資格費用を補填するキャリチャレ制度や、各階層別研修を盛り込んだグラッドンアカデミーなど、独自の人事制度も整備しています。法令順守意識も高く持ちながら、前向きにチャレンジを続けてきたことで、2020年には広島県の外食企業で初となる「働き甲斐のある会社ランキングベストカンパニー」を受賞することができました。
順調に店舗を拡大するも、ある時期から店舗ごとの「味のバラつき」が問題に
――「もみだれ」のOEM開発を依頼される前、どんな課題がありましたか?
瀬崎様:
創業時から順調に店舗拡大を続けて、2014年には広島県内に9店舗まで成長できました。しかし、この頃から店舗ごとの味のバラつきが問題になってきたんです。
弊社が運営する焼肉業態は、「親子三世代でリーズナブルにプチ贅沢を」をコンセプトとしています。これを実現するため、肉の仕入れ価格を抑えていることから、味の決め手となる「もみだれ」が重要な存在であり、強みでもありました。
――味のバラつきは、なぜ発生してしまったのでしょうか。
瀬崎様:
「もみだれ」は、本物の昆布だしをとって調合しているため、味の再現には熟練者の技術が欠かせません。当初は各店舗で「もみだれ」を調合していましたが、店舗拡大のペースに人材が追い付かず、徐々に味のバラつきや品質に課題を感じるようになりました。
その後、ベースのたれをセントラルキッチンでつくる方法に移行。それでも店舗拡大に際して製造量が間に合わなくなったため、OEM開発の検討を始めました。
創業当時から受け継ぎ守ってきた「味」は絶対に変えたくない
――これまで「もみだれ」をアウトソーシングできなかった理由は何ですか?
瀬崎様:
熟練者を一気に増やせないことや、店舗拡大のために安定供給の体制が不可欠であることを考えると、OEM開発のアウトソーシングはいずれ必要になると思っていました。しかし、創業時から守ってきた味が失われるのではないかと不安が大きく、なかなか一歩を踏みだせませんでした。
三世代焼肉をコンセプトに掲げる「食辛房」にとって、「もみだれ」はお店の差別化要素となる強みです。本物の昆布をつけこむなど、調理工程にこだわりが詰まっています。門井商店様に出会うまでは、守ってきた味が変化してしまうことを恐れて、気軽に委託することが難しかったんです。
足しげく店舗に通い、製造工程を理解。最新技術と職人の合わせ技で味を再現する
――門井商店には、具体的に何を期待していましたか?
瀬崎様:
「品質の安心感」「安定供給」「味の再現性」の3つに期待をして、OEM開発を委託しました。門井商店の工場は最新の大型設備を備えており、成分分析、保存テストなどが実施可能です。さまざまな分析・テストで品質が保たれるうえ、確実な在庫確保ができるのが魅力でした。
まとめて製造を委託すれば製造ロットを組んでいただけるため、ロスが生じにくくなり、在庫のマネジメントがしやすい点が魅力だと感じました。
――味の再現性を高めるために、どのようなアプローチをとりましたか?
瀬崎様:
味を再現する際は、成分などの定量分析だけでなく、熟練の職人による「官能検査」※ も実施していただけます。エキスなどで味を近付ける簡易的な手法を選ばず、徹底して弊社のやり方に近づけようとする努力はさすがでした。
官能的な味も、塩分や糖度をあわせる成分の数値調整にもバランス良く取り組んでいただけたため、忠実に味が再現できたのだと思います。
※官能検査…人間の五感(目・耳・鼻・舌・皮膚)を使って品質を判定する方法。職人が実際に味を確かめることで精度を高める
――店舗で行っていた昆布をつけこむ工程や「だし感」はどのようにクリアしましたか?
瀬崎様:
門井商店の担当者は、昆布をつけこむ作業を店舗で実際に体験して確認し、限りなく「食辛房」の現場と同じ工程を再現してくださいました。
他にも、経時変化の影響を受け安定しづらい「だし感」「醤油感」などの味を忠実に再現するため、非常に細かくすり合わせをしてくれたんです。短い期間にも関わらず何度も現地へ足を運んで、現行品のサンプルを試食したり、実際の製造工程を直接確認したりして、とことん向き合ってくれました。
お互いに納得のいくクオリティになるまで、妥協せず取り組んだ結果、想定通りの味に近づくことができました。
味を再現できたことによって急加速したビジネス。店舗展開だけでなくコスト削減にも
――ビジネスの側面での成果を教えてください。
瀬崎様:
店舗拡大にあたり懸念となっていた「もみだれ」の味が再現できたことで、一気に店舗開発のペースを加速できました。多いときは、年間で6~7店舗も出店を実現できて、大きな成果となりました。
また、今回の取り組みをきっかけに、「熟練者を育ててから店舗拡大をする」という考えから、「熟練者がいなくても外部のセントラルキッチンで味を安定させる仕組みを整える」「店舗拡大にあわせて人材採用を行う」など、スタンスそのものを変えられたのも成果の一つです。
――コスト面での変化はありましたか?
瀬崎様:
今回のOEM開発によって、セントラルキッチンのスペース確保に加えて、コスト削減の成果も得られました。理由としては、門井商店は数トン単位で原材料を仕入れるため、弊社では実現できない価格設定ができるからです。さまざまな原材料の高騰が続くなかで、この価格設定は非常に魅力でした。
また、「もみだれ」のアウトソースによって、弊社のセントラルキッチンは約4トン分のスペースを確保。空いたスペースに新たな原材料を保管したことで商品開発がはかどり、韓国料理や肉割烹などの多業態展開も進みました。
そして、当初の期待通り「安定供給」を実現できたのも大きな成果です。自社工場に大掛かりな設備投資をしなくても、門井商店に頼んだ分だけ提供いただけるため、ロス管理もスムーズで助かっています。
さらなる高み「10年ビジョン・100店舗目標」の達成に向けて
――最後に、商品開発の悩みを抱える飲食業の皆さまへ一言いただけますか?
瀬崎様:
飲食業界は価格高騰や品薄が続き、複数のサプライヤーを確保しながら収益性を維持し続けなければなりません。厳しい環境のなかで企業が成長するためには、自社商品(プライベートブランド)の開発を続けることが鍵だと考えています。
我々も、取り組み当初は、自分たちが守ってきた味の変化や収益性の悪化を不安視していました。しかし、実際にOEM開発をしてみると、門井商店の忠実な「品質の安心感」「安定供給」「味の再現性」により、店舗拡大ができました。
今後も、商品開発と品質の安定に強みをもつ門井商店との提携を強化し、弊社が掲げている「10年ビジョン・100店舗目標」の達成を目指していきたいと思います。
まとめ(編集後記)
熟練者が手間暇かけてつくる「もみだれ」の製造工程を忠実に再現するため、短い期間で何度も現場を視察し、実際に手を動かして理解を深める姿勢はプロそのもの。
糖分・塩分の定量的な数値分析と官能検査を綿密に行うことで、長年お店で守ってきた繊細な味の再現を実現。
また、門井商店の最新の設備により、微生物検査、成分分析、保存テストも可能で、品質の安定性にも評価をいただいている。
味の再現だけでなく、材料の保管スペースの確保や、まとめて原材料を仕入れて実現できる低コストも門井商店の強みだ。腐敗によるロスが生じにくい小ロットでのOEM委託が可能なため、収益性向上のためにも、ぜひOEM開発を検討していただきたい。