梅乃宿酒造様は、初めて日本酒が醸造されたという言い伝えがある万葉の地、奈良県に本社を構える地酒蔵です。130年以上もの間、日本酒の伝統を守りつつも新しい酒文化の創造を続け、日本酒業界の常識を覆す「あらごしシリーズ」をヒットさせました。
その後、お酒を飲む人も飲まない人も一緒にワクワクできる場を提供したいという思いから「あらごしシリーズ」を活用したドレッシング造りを考案。ドレッシングのOEM開発を門井商店にご依頼いただき、「あらごしシリーズ」らしさを最大限に活かしたフレッシュなドレッシングの開発に成功しました。
今回は、ドレッシングの開発に携わった企画開発課 課長の大川様にインタビュー。歴史のある地酒蔵の挑戦に込めた思いや、開発時のこだわり、OEM開発のご感想についてお伺いしました。
取材先企業
- 企業名:梅乃宿酒造株式会社様
- 取材にご協力いただいた方:企画開発課課長 大川篤史様
開発商品の概要
- ジャンル:ドレッシング
- ロット:200ml×約600本
- 容器:瓶
- 開発期間:2020年9月~2021年5月(8か月)
商品開発前の課題
- 時代の変化に合わせ、「お酒を飲めない人」にも楽しんでもらえるような商品を開発したい
- はじめてのドレッシング開発、見通しの立ちづらい挑戦に対し、臨機応変かつ能動的にサポートしてもらえる「ブレーン」がほしい
商品開発後の成果
- 想像以上に反響が大きく、クラウドファンディングでも再販の問い合わせを多数もらった
- ECサイトなどで販売しリピーターも多い
- 既存顧客からは「梅乃宿酒造らしい」と高評価を得ている
- みかん以外にも「もも」など他の商品へ横展開できた
新しい酒文化を自ら切り拓く。それが「梅乃宿酒造らしさ」
──創業から自社ブランドを展開する前までの事業内容や特徴についてお聞かせください。
大川様:
1893年に創業して以来、日本酒製造業を長く営んできました。日本酒業界では江戸時代から300年以上続くお蔵もあるため、130年というのは業界内ではまだまだ“若造”の立ち位置となります。戦中・戦後も変わらず酒造りを続けてきて、昭和40年代には日本酒市場がピークを迎えました。この頃の当社は大手酒造の「桶売り」として、いわゆるOEM製造を行っており、自社ブランドは一切保有していませんでした。
しかし「桶売り」の事業は、日本酒の需要が下がれば会社の存続が危ぶまれるリスクと隣り合わせでした。そのため、先代の吉田 暁は危機感を覚え、他の地酒蔵に先駆けて自社ブランドの立ち上げに着手しました。自社ブランドの開発・販売に踏み切った当初は、同業他社から「なぜそんな無謀な挑戦をするのか」と非難されることもありましたが、時代の変化に適応すべく挑戦を続けた結果、自社ブランドの確立に成功。昭和50年代には自社ブランドを作る会社が増加しはじめ、現在では日本酒の酒造が自社ブランドを持つことが当たり前になってきました。
──あらごしシリーズが生まれた経緯を教えていただけますか?
大川様:
梅乃宿酒造が掲げているパーパスは「新しい酒文化を創造する」です。このパーパスやワクワクを大切にする社風があったからこそ、「あらごしシリーズ」を生み出すことができました。
自社ブランド製品の開発・販売を始めてからは、季節雇用のスタッフを常用雇用に切り替えたり、日本酒の製造が難しい夏場でも造れる製品を考えたりして、試行錯誤を繰り返しました。夏場でも製造できる梅酒を開発したところ、大手梅酒メーカーやご家庭で漬け込む梅酒とは一味違う商品の開発に成功します。しかし、周囲からは「日本酒の地酒蔵がとうとうリキュールに手を出したのか」と否定的な声も聞かれました。
それでも先代の吉田暁は、お客様の喜ぶ顔を見たい気持ちの一心で、業界の逆風に負けずに梅酒造りに打ち込みました。
信念を持って取り組み続けたことで、梅酒造りの製造過程で産業廃棄物として処理されていた「漬け終わった梅」の活用アイデアを見出し、「あらごしシリーズ」を誕生させました。
その後、あらごしシリーズのヒットを皮切りにリキュール事業は拡大し、2000年代初頭には海外展開も成功させました。その後、日本酒製造とあらごしシリーズを中心に、より果実感を楽しめる製品や、大人が夜のスイーツとして楽しめる製品など、時代にあわせた商品開発を行ってきました。
飲めない人も、飲める人も。多様な人たちにご愛顧いただける商品を目指して。
──今回、あらごしリーズの活用法を検討するに至った経緯をお聞かせください。
大川様:
今では「飲めない人も一緒に楽しもう」という考え方が当たり前になってきています。実は、梅乃宿酒造にも「お酒を飲めない社員」が一定数いるのですが、お酒を飲めなかったとしても、食事や飲み会の楽しい空間を共有することは可能だと考えています。飲めない人・飲まない人とも楽しい場を共有するために考案したのが、当社で年間30万本以上の販売実績のある「あらごしみかん」を活用したゼリーでした。
その後もさまざまな切り口で商品開発に勤しんでいたところ、あるテレビ取材でシェフの方が、当社のリキュールをドレッシングとしてアレンジしてくださいました。それにヒントを得て、「あらごしみかん」を活用したドレッシング開発の話が動き出しました。
小ロットかつ親身で柔軟な対応力が門井商店を選んだ決め手に。
──商品開発にあたって、門井商店をお選びいただいた理由についてお聞かせください。
大川様:
当社は日本酒造りのプロですが、ドレッシングを製造するのは今回が初めての取り組みとなります。万が一のリスクを考慮すると、大量生産ではなく始めは数百程度の小ロットで対応してくださるパートナーが必要でした。
複数の委託先を比較検討したところ、どうしてもロット数が希望と合わなかったり、ドレッシング開発の知識がないと難しいと後ろ向きな返事をされたりして、なかなか条件の合う委託先が見つかりませんでした。しかし門井商店は親身に話を聞いてくれて、細かい要望も丁寧にヒアリングしてくださいました。
さらに、門井商店は私たちの指示通りに動くというよりも、思いを汲み取ったうえで色んな提案をしてくれたため、「一緒に開発をする」感覚が非常に心地よかったです。当社と同じ関西圏にある企業に委託すれば輸送コストを抑えられるメリットもありましたが、柔軟かつ親身な対応力が信頼できる門井商店に委託を決めました。
ほんもののみかんを食べるような果実感をドレッシングで再現する
──今回のお取り組みにおいて、難しかった点や試行錯誤のプロセスについて、お聞かせください。
大川様:
当社の売れ筋リキュールである「あらごしみかん」を活用したドレッシング開発に取り掛かった際は、みかんのつぶつぶとした食感や果汁の美味しさなど、「あらごしシリーズ」らしさを出すために試行錯誤を繰り返しました。果実感を表現するためにみかんの「さのう」を入れたり、みかんの風味を邪魔しない「なたね油」を使用したりして、みかん果汁のフレッシュさを損なわないような配分を模索しました。
また、あらごしシリーズでは白フロストの瓶を使うことで、みかん色とみかんのあらごし感を訴求していたため、ドレッシングのパッケージにも同様の瓶を採用。きれいなみかん色を伝えるために醤油選びも慎重に行い、茶色くならないよう配慮をしました。
このように、あらごしシリーズならではの果実感を最大限に引き出しつつ、ドレッシングとして重要な塩、油、醤油の種類や配合量などを微調整するため、門井商店とともに何度も施策を繰り返してドレッシングが完成しました。
「梅乃宿酒造さんらしいね」と評価も上々
──今回のお取り組みによる、事業上の成果についてお聞かせください。
大川様:
想像以上に反響が大きく、クラウドファンディングの販売後に再販希望のお問い合わせも多くいただいています。ECサイトで販売したところ、大変ありがたいことにリピートのお客様も多く、ドレッシングをきっかけに当社のお酒を手に取ってくださる方もいらっしゃいます。
得意先様からは、「ここまで果実味にこだわっているのは梅乃宿酒造さんらしいね」などと高評価をいただけました。
他にも、あらごしシリーズと一緒に楽しんでくださる方が多く見られて嬉しい限りです。みかんのドレッシングに加えて、ももを使ったドレッシングの商品開発にもつなげることができました。
門井商店は「想いをカタチにする技術や経験」と「柔軟性」を持ち合わせた、信頼できるパートナー
──門井商店について、ご評価いただいているところがあればお聞かせください。
大川様:
門井商店は商品開発以外の相談でも寄り添ってくださり、さまざまな視点で協力してくださるのが魅力です。例えば、ドレッシングの販促について相談をした際はサンプリング用の小袋を提案いただけましたし、小ロットの難しいスケジュールにも何度も柔軟に対応いただけて本当に助かりました。
求める味の再現性や技術力や豊富な開発経験はもちろんですが、OEM開発全般の対応力と寄り添ってくださる姿勢は、とても信頼できると感じています。
飲まない人も、飲む人もともに楽しめる空間を創っていく。
──今後の展望をお聞かせください。
大川様:
ドレッシングに限らず、飲めない人も飲める人も一緒に楽しめる場を提供していきたいです。新しい酒文化を創造するために、今後はドレッシングや調味料に限定せずに「食卓」まで視野を広げて、積極的にお酒以外の商品開発に取り組んでいきたいと思います。その際には調味料を得意とする門井商店とまた、ご一緒できたらいいなと考えています。
また、梅乃宿酒造は「#ワクワクの蔵」というテーマを掲げています。長く継承してきた日本酒の文化や技術を守りながらも、ワクワクする楽しいことに挑戦を続けて多くの人に広げていきたいという思いを込めて、今後も新しい酒文化を創造する蔵として挑戦していこうと思います。
営業担当 森重からのコメント:
当社は、ひと手間、ふた手間をかけながら商品開発に取り組むことを得意としています。梅乃宿酒造様が商品開発にこだわりを持ち、手間を惜しまずに挑戦する姿勢は、当社の考えと通ずる部分が多くありました。
今回は、みかんドレッシングに続いて「ももドレッシング」の開発もご依頼いただきましたが、もものドレッシングは開発途中に油を使う手法に切り替えを行いました。途中までノンオイルで開発を進めていたため、油の種類や量、全体のバランスの再構築は難しかったのですが、最後まで諦めずに議論と検証を重ねて、無事に商品が完成しました。
今後もひと手間、ふた手間を惜しまずに、可能な限りお客様のご要望に寄り添ったご提案ができるよう、努めていきたいと思います。
まとめ(編集後記)
伝統的な日本酒文化の継承と発展の両方を守るために、どの時代でも果敢な挑戦を続けてきた梅乃宿酒造様。日本酒だけで表現できることと、日本酒から一歩踏み出したところに見出せる価値のどちらも大切にしたいという思いが、今回のOEM開発に現れていると感じた。日本酒の長い伝統を守りつつ、柔軟にアイデアをめぐらせて変化を楽しむ社風は、先代から代々引き継がれた梅乃宿酒造様ならではの魅力だ。今後も、日本酒業界にイノベーティブな風を吹かせてくれることに期待したい。